エルヴィン・ロンメル(Erwin Rommel)

1891〜1944

 今、エルヴィン・ロンメルと聞いてすぐに彼が何者か分かる日本人がいるだろうか。彼は第2次世界大戦下のドイツ軍の将軍である。必然的にあのヒトラーの部下ということになる。互いに尊敬しあう仲だったが、ヒトラーだけが大戦後には非常に悪評になったのは誰でも知るところである。その腹心だったロンメルは英雄視されているのだから面白い。彼はユダヤ人の大量虐殺にも関与しておらず、敵方の捕虜を極めて丁重に扱ったと伝えられる。ヒトラーが捕虜虐殺を命令しても、無視したという。それは捕虜虐待を禁じた国際法を重んじていたからに他ならない。紳士的な将軍である側面、非常に戦術が優れていたという。イギリスのチャーチルが常にロンメルに敗北するため、「ロンメル!ロンメル!ロンメルを打ち負かすことさえ出来れば、他はどうでもいい!!」とまで苦杯を舐めさせられていたのである。ロンメルは事実、フランスを占領するのもあっという間に成し遂げてしまう。独仏休戦協定が結ばれたために、イギリス上陸までには至らなかったが、フランスの捕虜兵達はロンメル率いる軍団を「幽霊師団」と呼んでいたという。信じられない速さで進軍し、どこに現れるかわからないというから余程凄かったのであろう。この休戦協定に業を煮やしたのが、フランスのド・ゴールである。イギリスに単身駆け込み、チャーチルと渡りをつけて後に反撃をしてくるのだ。ちなみに休戦協定を結んだのはド・ゴールの師ともいわれるフィリップ・ペタンであった。
 やはり将軍というのは柔軟な思考をすることが出来なければ、戦場では使い物にならない。古来から変わらぬ法則であろう。ロンメルも正にそういう男であった。兵士からの人望も極めて高い。それは戦場の最前線に躍り出るのが司令官ロンメルなのだから、いやがおうでも士気は高まるのである。自らを弾丸にさらして兵を鼓舞する姿は、末端の兵士の心を打たずにはいられまい。かのフランスの英雄ナポレオン・ボナパルトもやはり戦場においては最前線で指揮を取ったという。そしてアンデス越えでは砲をばらしてでも運んで、敵の虚をついたのも有名な話だ。頭が固くては出来ない芸当である。日本の源義経もこの部類であろう。ひよどり越えの一件も全く同根の発想である。そしてこのロンメルもそうした部類の人間であった。イギリスのマチルダ戦車に対して、当時ドイツ軍で一般的であった口径37ミリの対戦車砲は全く役に立たなかった。そこでロンメルが考えたことは何か。本来飛行機を打ち落とすための口径88ミリの高射砲を敵戦車に向けたのである。完全に掟破りの戦術だ。ふと日露戦争の旅順での激闘、いわゆる「203高地」での乃木大将の後釜に座った児玉源太郎の発想と類似している印象をもった。彼も戦艦に搭載していた大砲を外して、戦場に持ち込むという奇抜な作戦で日本に勝利をもたらしたのであった。臨機応変というのは軍を率いるものにとって必須事項であるように思うのである。
 フランス制圧後にロンメルはアフリカに派遣されることになる。イタリアを援護する目的である。形式上はイタリアの司令官イタロ・ガリボルディ将軍の下の地位だったが、ロンメルはそのようなことは関係なく、進軍をするようにとの自説を押し通す。ロンメルはしばらく快進撃が続くが自分の体調不良とドイツ本国の対アフリカ政策の弱腰も手伝い、物量的に圧倒的な力を誇る連合国軍に押されてしまう。イギリスの将軍バーナード・モントゴメリーにロンメルは敗れてしまう。チャーチルもこの時期に勝利が始まったと見ている。この辺りでもうロンメルは休戦に持ち込んだほうが良いと思っていたようで、ヒトラーの戦略とも「きしみ」が生じ始めていた。ロンメルの最期は何と自殺である。ヒトラー暗殺計画に加担したと見られたためだ。実際は全くの事実無根であるが、連座をヒトラーに強要されたと言ってよいだろう。信頼し、尊敬しあう仲でも亀裂は生じる。ロンメルはヒトラーの持つ一種独特の魅力を否定しなかったと言われ、ドイツの為にその身を惜しむことはなかった。ロンメルの死をヒトラーは国葬で応えた。これはロンメルを戦死扱いして、国民の戦意を高揚させるプロパガンダの意味があったと考えられている。事実そうであろう。
 ロンメルは個人の男として見るならば、一人の妻をこよなく愛し、戦場からも手紙を絶やさなかったと伝えられる。子どもは長男が一人。マンフレートと名づけられた彼は父の名声の助けもあって、20年以上もシュツットガルトの市長を務め上げた。今でもヨーロッパではロンメルは尊敬の対象だということだ。それはヒトラーの独裁に最期は立ち向かったと見られているからでもある。戦後ドイツ人の失いかけた誇りを取り戻させたのは、戦地にあっても誠実な態度を残した印象と、敵である連合国軍からも高く評価されるロンメルの人生そのものでもあったようだ。

−汗を流せ、血を流すな。−

−指揮官は部下の中に入っていき、彼らと共に感じ、共に考えなければならない。−

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